こどもになって

こどもになって


·過去スレの

·子供になったメルニキと

·無意識あまやかしワニ

·


 なにやら得体の知れない現象に出会った、という事しかショコラは分からなかったらしい。困った様子のショコラによってクロスギルドに連れてこられた小さな子供の瞳はお前の兄だと訴えていた。

「なにやってんだてめェは」

 見た目から4歳ほどにまで縮んでしまったキャメルは大きすぎて合わないシャツを着て弟を見上げ、

「せんちょうはどこ?」

 と聞いてきた。船長ならお前が殺しただろうと言いたかったがこの幼児はその記憶さえない。勿論その理由も原因の弟のこともだ。

「帰ってくるまで預かる事になった。待ってろ」

「わかった」

 適当な返事に素直に頷くと椅子に座って後は一言も喋らない。

 呼吸の音さえ静かで言葉は最低限動きは最小、言われた事を守って大人しくしている兄の姿など天地がひっくり返る異常事態だが多分アニキが“兄”になる前はこうだった。

 それはおれが知らない兄だ。

 

 それはとても。


「⋯⋯⋯⋯キャメル」

 手招きすると黙って近寄って来たので膝の上に乗せると机の引き出しから以前アニキが勝手に突っ込んだキャラメルを手渡す。

「これなに」

「食い物だよ。食べてろ」

「? ……まだ食事の時間じゃない」

「四六時中飴舐めてる男の言葉とは思えねェな」


 子供の時から騒がしく、食事の時は

「美味しいね。クロ」

「クロはそれ好きなの?」

 と聞いてくるし寝ている時には歌を聞かせたり適当な創作を話してきて、兎に角黙っている時間の方が短い奴だった。

 静かなのは寝ている時だが見れる事は滅多になく大怪我をして意識もなかったのを看病していた時くらい……今思い出しても不快だ。その時は結局少し回復したらまた元のやかましさに戻ってしまった。


 動かないアニキの代わりに包み紙を取っても無反応なので唇に当てるとようやく口を開ける。

「美味いか」

「甘い」

 引き出しの中はアニキが来る度に菓子が増えていたので残念ながら底はない。

 チョコレート、キャンディ、クッキーと一つ一つ口に入れる度に律儀にどんな味だったか報告するので黙って放り込んでやる。

 抱え直した体は当然だが軽かった。


 調査によれば小さくなった奴らは3日もすれば元に戻ることが分かっている。それまで放っておいて問題はないだろう。

「飲め」

「ん」

 3日。それまでいつ来るか分からない奴に邪魔されることは無いということだ。アニキがいる時は絶対にできない仕事を終わらせるには絶好の機会だろう。

 いっそこのままでも楽かもしれない。

「苦い」

「一々報告するな」

 いつも通り砂糖とミルクを入れてアニキが好む甘さにして飲ませてやれば、大人しく飲み続ける。


 改めて仕事を再開するが邪魔されることは結局なかった。

 

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